睦月
着信の絵文字顔文字初笑
尖塔の影うすうすと寒に入る
佳き事のありそな予感初暦
水餅の揺らぎ壺中の闇にかな
挨拶の言葉控えめ雪中花
大家族ごとき気分の笑初
路地裏を徐行運転初荷来る
待春の尾びれ一閃鯉の音
洋風の鉄扉ずしりと注連飾
携帯の胸を震はす初電話
一族の確かな絆笑初
浜の朝靄より出る鳰の陣
踏石の形まばらに竜の玉
遮断機の音に広がる初景色
如月 | |
佳きことのあるらし気配初音聞く 三脚の手筈止めたる初音かな 飛鳥川女綱男綱の注連飾 春菊や苦き思いの青春期と 薄氷の中へ融けゆく朝日かな 浅き春膝に悲しきほどの坂 猫柳風に煌めきさざ波す |
初音して峡の深きに谺果つ 二のを足踏みて出かける余寒かな 水音のうなずくごとく凍ゆるむ 初音して山路静寂となりにけり 下萌やいまも見つかる古墳跡 凍解や遅れて告げる大時計 枕頭を刻む秒針冴え返る |
弥生 | |
きさらぎの風の起点となる畷 強東風や客待ち顔の猿回し 淡雪や少し買ひ足す常備薬 焼きたてに五指弄ぶ蓬餅 英字紙に包まれ貰ふ黄水仙 鯉の尾の放つ一閃水温む 強東風や期限の過ぎし置き薬 |
蓬摘み記憶はるけしわらべ唄 柔らかき光踏みつつ蓬摘 暖かや土間に格子の影置きて 開け放つ門扉の軋み黄水仙 つちふるや文字の褪せたる時刻表 野球子の背に蹴り上ぐ春の泥 散策の順路違へし落椿 |